ニュースパレス・オメガ

最新のニュースはもちろんのこと、読む人にあまり役に立たないかもしれない情報をどんどん発信していきます。

【情熱大陸】ハイコロラトゥーラ・田中彩子。大学出てないの?経歴とその声が演じる役柄は

最も高い音域を駆使して歌うソプラノ。ハイコロラトゥーラ。

そのハイコロラトゥーラとして活躍する日本人ソプラノ、田中彩子。

 

f:id:newspalaceomega:20160531124109j:plain

出典:http://blog.goo.ne.jp/bravo_opera_classica/e/46eb8ed4bf7dc3a537e4ce18fb2df35c

 

6月5日に放送されるTBS「情熱大陸」で彼女がフィーチャーされる。

さて、ハイコロラトゥーラとは聞きなれないが、一体何なのか。

 

1. 経歴

彼女は非常に珍しい経歴をしている。

というのも、日本で音楽大学を卒業していないからだ。

幼少よりピアノを弾いており、将来はピアニストになることが夢だった彼女。しかし、生来の手の小ささによりピアニストの道を断念する。

そんな折、とある研修で出会った声楽家によって道を示され、なんと18歳で声楽の勉強のためにウィーンへ留学。

 

彼女の経歴には海外の音大の名前も記載されていない。

彼女は個人的に先生に師事して、その才能を開花させたのだろう。それ自体は珍しいことではないが、それでも教育機関に全く入っていないのは驚きである。

2. ハイコロラトゥーラとは

ハイコロラトゥーラとは声質を示す。

一般的に女声の声種はソプラノ、メゾソプラノ、アルトの3種類だが、そこから更に細分化される。

特にソプラノは種類が多く、声質の重い方からスピント、リリコスピント、リリコ、リリコレッジェーロ、レッジェーロと分かれる。

この分け方は厳密ではなく、また国や場所によっても言われ方に違いがある。

レッジェーロの中でも、小間使い役が合う声質ならスーブレットという呼び方をしたり、更にワーグナーなどの極端に重い役を歌うソプラノは、ドラマティックソプラノと呼ばれたりもする。

この細かい声種の分け方はオペラのためのものであり、歌曲となるとあまり関係がなくなる。

 

そして、コロラトゥーラという名前は厳密には声質よりも技術を示しているように思われる。

そう定義して田中を示すとするなら、彼女は超高音を持つレッジェーロで、コロラトゥーラの技巧を用いて歌うことができる歌手である、ということになる。

 

コロラトゥーラの技法というのは簡単に言えば、細かい音をコロコロと動かす技術。

実際に声を出してみるとわかるが、音を細かく動かすのは非常に難しい技術なのである。

 

声質は必ずしも限定的なものではなく、加齢と共に変化するのが一般的である。

世界的なソプラノ歌手、ミレッラ・フレーニなどは、若い頃はレッジェーロとして活躍していたが、年齢を重ねるにつれて声が重くなり、リリコスピントの役を歌うまでになった。

 

声質によって、役のイメージがある程度決まってくる。

レッジェーロは先にも述べたが、小間使いや若い女性の役が多い。

リリコは中くらい。ヒロインから悪役まで幅広いレパートリーを演じることができる声。

スピントまで重くなってくると、ヴェルディリヒャルト・シュトラウスなどの主要な役などを務めるにふさわしい声質となる。

 

じゃあ、コロラトゥーラはどんな役なのかというと、ある意味人間的でない、神がかった役が多くなってくる。

 

3. ハイコロラトゥーラの演じる役

・夜の女王

これは田中がメディアで最も歌っている曲であろう、モーツァルト作曲のオペラ 「魔笛」の夜の女王のアリア「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」である。

 

 

最高音はHiFと呼ばれる。

ピアノの鍵盤でいうと、真ん中のドから2オクターブ上がった上のド、の更に4つ上のファの音。

ソプラノと呼ばれる声質であっても、このあたりの音を出すことが可能な人は一握り。

これがコロラトゥーラの証明と言っても過言ではない。

 

ただ、「高い音が出る歌手=すごい歌手・うまい歌手」ではない。

声はその人が生まれ持ったものであって、それで上手下手を区別するものではないからだ。

 

歌劇「魔笛」はモーツァルトが残した最後のオペラ作品。

このアリアはドイツ語で歌われている。

 

舞台はエジプト。

この曲は、敵対している国の神官ザラストロを殺せ!と娘に短剣を授ける場面で、復讐に狂って歌われるアリア。

そう、夜の女王は実は悪役なのである。しかもちょっとキチガイ入ってる感じの。

そう考えると、田中の演奏は少し美しすぎる気もする。

 

キチガイを見事に演じるディアナ・ダムラウの映像と、この曲を素人が歌ったらどうなるのかを示しておこう。

 

 

オランピア

オランピアオッフェンバック作曲の歌劇「ホフマン物語」に登場するヒロインの一人。

ヒロインの一人、というのはこのオペラには複数のヒロインが登場するためである。

オランピアは第二幕のヒロインであり、機械仕掛けの人形である。人間ですらない。

 

オランピアのアリア「生垣に小鳥たちが」も、最高音にHiEs(ハイエスと読む)を持つ難曲。

ピアノの真ん中のドの音から2オクターブ上のド、の更に上のミのフラットである。

 

残念ながら彼女のオランピアの音源はYouTubeにないので、森麻季のものを挙げる。

 

 

ここに挙げた2役は特に人間離れしているが、もちろんコロラトゥーラはこのような役しか歌えないわけではないし、ちゃんとした人間の役もある。

 

4. 他

歌劇「ラクメ」の「鐘の歌」や、歌劇「キャンディード」の「着飾って煌びやかに」など。

 

 

 

また、コロラトゥーラソプラノだって普通のレッジェーロの役も歌うことが出来る。

田中も現に「フィガロの結婚」のバルバリーナや「リゴレット」のジルダなどの役を歌っている。

 

夜の女王の音源でもわかる通り、彼女の声の真の魅力はその柔らかさにある。

技巧的な曲はそれだけで「凄い」と思わせることが出来て、販売戦略的にも売りやすい。

だが、真に彼女の魅力を生かすのは最高音が求められる曲よりも、その柔らかさを生かした役柄かもしれない。

 

なお、ここに挙げた音源は、最後の「キャンディード」を除いてすべて彼女のアルバムに入っている。

 

 

Amazonでは視聴も可能だ。